年長の秋から冬にかけて、園や教育委員会から「就学支援シート」を受け取る方が増えます。 白紙の様式を前にして、「何をどこまで書けばいいのだろう」「うまく書けなかったら、 この子が困ることになるのでは」と手が止まってしまう——そんな声をよく聞きます。
就学支援シートは試験でも審査書類でもありません。園や家庭で積み上げて きた工夫を、入学先の先生と一緒に考えるための引き継ぎ資料です。この記事では、公開されて いる自治体の様式と記入見本をもとに、記入項目の順番に沿った書き方と例文を整理しました。
就学支援シートとは(名称は自治体によって異なります)
就学支援シートは、小学校入学にあたって、お子さんの特性や園・家庭で行ってきた支援を 入学先の学校に引き継ぐための書類です。ねらいは「これまでの支援や配慮が、入学を境に 途切れてしまわないようにすること」にあります。発達障がいのあるお子さんや、発達が ゆっくりなお子さん、園で個別の配慮を受けてきたお子さんなど、診断の有無にかかわらず 「入学後も続けてほしい配慮がある」ご家庭が使えます。
注意していただきたいのが、名称も運用も自治体ごとに違うという点です。 「就学支援シート」「就学支援ファイル」「相談支援ファイル」「サポートファイル」 「サポートノート」など呼び方はさまざまで、1枚のシート型ではなく、成長の記録を ためていくファイル型を採用している自治体もあります。制度そのものが用意されていない 自治体もあります。
次の点はとくに差が大きいので、お住まいの自治体の教育委員会や就学相談窓口で 必ずご確認ください。
- 書類の名称と様式(シート型かファイル型か)
- 対象者(新1年生全員か、就学相談を申し込んだ方に限られるか)
- 配布の経路(園・教育委員会・就学時健康診断の会場など)
- 提出先と提出方法(園経由・教育委員会・入学先の学校へ直接など)
- 提出の期限、就学相談との関係
いつ受け取って、いつ出すもの?
おおまかな時間軸は次のとおりです。ここも自治体によって前後します。
| 時期 | おこなうこと |
|---|---|
| 年長の秋〜冬 | 様式が配布される(就学時の健康診断の際に配る自治体もあります) |
| 就学先が決まったあと〜入学前 (おおむね12〜2月) | 保護者が記入し、園・療育機関の記入欄とあわせて提出する |
| 入学前後 | 入学先の学校に引き継がれ、面談などで内容を確認する |
多くの様式は、保護者が書く欄と、在籍している園や療育機関が書く欄がセットになっています。園に記入をお願いする時間が必要になるため、締め切りだけは早めに 確認しておくと安心です。
提出は任意。そして「就学先を決めるための資料」ではありません
公開されている自治体の案内を見るかぎり、就学支援シートの提出はいずれも任意とされています。出さなかったからといって不利になるものではありません。 書けるところだけ書いて出す、という選択もできます。
また東京都中野区は、就学支援シートが就学先を決めるための資料ではないことを 明記しています。就学先(通常の学級、特別支援学級、特別支援学校など)は、本人・保護者の 意向を最大限に尊重しながら、市町村の教育委員会が総合的に判断する仕組みです。 就学支援シートは、その決定を左右する書類ではなく、決まった場所でどう過ごしやすく するかを一緒に考えるための資料だと考えてください。
迷いや悩みが残っている段階でも、シートは書けます。むしろ「ここが心配です」という 保護者の気持ちごと引き継げるのが、この書類の役割です。
就学支援シートの記入項目と書き方(項目別の記入例)
様式は自治体ごとに違いますが、項目の並びは多くの様式で似ています。 公式の様式に多い順に、書き方と例文を見ていきます。
1. 本人の基本情報
氏名、生年月日、住所、連絡先、在籍している園などの事務的な情報です。 考え込まずに埋められる部分なので、ここから始めると手が動きやすくなります。
2. 得意なこと・好きなこと・興味のあること
見落とされがちですが重要な点です。公式の様式は「苦手なこと」より先に 「得意なこと・好きなこと」を置いています。困りごとの申し送りではなく、 「この子はこういう子です」から始める設計になっているのです。
記入例:
ブロックや図鑑など、一人で集中して取り組む遊びが得意です。
電車の名前をたくさん覚えていて、話題にすると表情がやわらぎます。
好きなものは、先生が関係をつくるときの手がかりになります。「困ったときにこれを渡すと 落ち着く」といった実用的な情報にもなるので、遠慮なく具体的に書いてください。
3. 苦手なこと・配慮が必要なこと
「生活面」「遊び・活動」「集団参加」「コミュニケーション」など、場面ごとに分けて 書かせる様式が多くあります。分かれていない様式でも、場面を意識して書くと具体性が 上がります。
記入例(例文):
はじめての場所や活動に慣れるまで時間がかかります。事前に写真で見せたり、 見本を見せると取り組めます。
大きな集団では指示が入りにくいですが、個別に名前を呼んでから伝えると理解できます。
4. 家庭・園で行ってきた支援、効果のあった工夫
学校にとってもっとも役に立つのが、この欄です。すでに効果が確かめられている方法が 分かれば、先生は入学初日から試すことができます。
鳥取県米子市が公開している記入例では、絵カードを使った支援で覚えられた文字数まで書く、 写真カードや絵カードで指示をすると有効だったと書く、といった具合に、何をしたら、どうなったかまで具体的に記されています。 この書きぶりが参考になります。
米子市の様式には、これまでの支援で伸びたことと、これからも伸ばしてほしいことを書く欄も 設けられています。できるようになったこと、伸びたことも書いていい—— むしろ書く場所が用意されている、ということです。
5. 相談・支援機関の履歴
医療機関・主治医、療育機関、相談支援事業所、発達障害者支援センターなど、 これまで関わってきた機関と利用の経過を書きます。 機関名と、通っている頻度や時期が分かる程度で十分な様式が多いです。
6. 健康・身体面
アレルギー、持病、服薬、補装具、てんかんなどの発作歴といった健康面の情報です。 ここは事実をそのまま書くのが基本で、対応の判断まで書き込む必要は ありません。診断名や服薬の内容に迷いがあるときは、主治医に確認したうえで記載して ください。
記入例:
食物アレルギー(品目)があります。詳細は入学前の面談でお伝えします。
ひとつ知っておいていただきたいのが、アレルギーや慢性の疾患への学校での対応は、 就学支援シートだけで完結する仕組みではないということです。給食での除去や 緊急時の対応などは、医師が記入する「学校生活管理指導表」など別の書類と手続きで 進めるのが一般的です。就学支援シートには「配慮が必要な事情がある」ことを伝えるまでに とどめ、具体的な対応は入学先の学校・養護教諭や主治医と個別に相談してください。
7. 学校への希望・保護者の意向
「お願いしたいこと」「知りたいこと」を書く欄です。漠然とした願いよりも、具体的な依頼や質問の形にすると受け取りやすくなります。 米子市の保護者記入例にも、入学式の前に一度式場でリハーサルをさせてほしいという依頼が 挙げられており、まさにこの形です。
記入例(例文):
予定の変更は、事前に個別に伝えていただけると落ち着いて過ごせます。
気持ちが高ぶったときにクールダウンできる場所があるか、教えてください。
8. 園・療育機関の記入欄
在籍園や療育機関が、集団での様子や支援の経過を書く欄です。保護者が書く欄では ありませんが、お願いする時期を早めに伝えておくことが実務上のコツです。 中野区は、保護者が園や療育機関と相談しながらシートを書くことを案内しています。 一人で完成させなくてよい書類です。
9. 情報共有への同意欄
様式に含まれている場合は、記載した情報を学校や関係機関と共有することへの同意欄が あります。どこまでの範囲に共有されるのかが分かりにくいときは、提出前に窓口へ 確認しておくと安心です。
伝わるまとめ方のコツ(公式の記入見本から)
自治体が公開している記入見本には、共通する書きぶりがあります。
- 「特性」と「家庭での対応」をセットで書く。 自治体の記入見本の例文は、ほぼすべてこの形式です。たとえば、一度にたくさん話すと パニックになってしまうので1つずつ伝えるようにしている、といった書き方です。 困りごとだけで終わらせず、対応をひと続きで書くと、読んだ先生がすぐ動けます。
- 効果のあった支援を、結果まで含めて具体的に書く。 「絵カードが有効だった」だけでなく「絵カードで指示すると伝わりやすい」のように、 再現できる書き方にします。
- できていること・伸びたことも書く。 苦手の一覧だけを渡されると、お子さんの像が実際より小さく伝わってしまいます。
- 全部の項目を埋めなくてよい。 中野区の案内には「すべての項目に記入する必要もありません」と明記されています。 空欄があっても、シートの価値は下がりません。
- 園や療育機関と相談しながら書く。 家庭では見えない集団での様子は、園のほうが言葉にしやすいことがあります。
一般的に勧められている書き方の工夫
ここからは公式の記入見本に直接の記載があるわけではなく、支援の現場や関連メディアで一般的に勧められている工夫です。参考程度に受け取ってください。
- 肯定形で書く。「一人では着替えられません」より「順番を絵で示すと 自分で着替えられます」。できない事実より、できる条件が伝わります。
- 評価の言葉を避け、行動で書く。「わがまま」「落ち着きがない」といった 評価語ではなく、「順番を待つ場面で列を離れることがあります」のように、 観察できる行動として書きます。読み手による解釈のずれが減ります。
- 書いたあとに、誰かに読んでもらう。園の先生、スクールカウンセラー、 特別支援教育コーディネーターなどに目を通してもらうと、伝わりにくい表現に 気づけます。
一度書いた内容は、その後もずっと使えます
就学支援シートを書く作業は、お子さんの特性と有効な支援を、はじめて言葉にして 棚卸しする作業でもあります。そしてこの内容は、入学後の面談、担任が替わる年度はじめ、 中学校への進学、放課後等デイサービスの利用開始など、これから何度も必要になります。
「わたしのトリセツ」は、こうした情報を項目に沿ってまとめ、必要なときに先生や支援者へ 共有できるようにするサービスです。整理された土台が手元にあると、次に書類を書くときは 更新するだけで済みます。
最後に
就学支援シートは、上手に書いた人が得をする書類ではありません。任意の書類であり、 空欄があってもよく、園や窓口に相談しながら書いていいものです。 「この子が学校で少し過ごしやすくなるために、知っておいてほしいこと」を いくつか書けたなら、それで役割は果たしています。
なお、名称・対象・提出方法・期限といった運用は自治体ごとに異なります。実際に記入・ 提出される際は、必ずお住まいの自治体の教育委員会または就学相談窓口の案内を ご確認ください。
参考にした情報
- 文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1340250_00004.htm - 文部科学省「個別の教育支援計画」参考様式
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1340250_00005.htm - 文部科学省「就学時の健康診断」
https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/mext_02465.html - 東京都中野区「就学支援シート」
https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/kosodate/kosodatesite_ohirune/mokuteki/syogai/gakkou/syugakushiensheet.html - 東京都世田谷区「就学支援シート」
https://www.city.setagaya.lg.jp/03686/1977.html - 東京都江東区「就学相談・就学支援シート」
https://www.city.koto.lg.jp/582102/kodomo/kosodate/sodan/20191008.html - 鳥取県米子市「就学支援シート」記入例
http://www.city.yonago.lg.jp/secure/20538/sample.pdf - 札幌市「サポートファイルさっぽろ」
https://www.city.sapporo.jp/shogaifukushi/hattatu/supportfiles.html
(各リンクの最終確認日: 2026年8月2日。制度の運用や様式は改定されることがあります。 最新の情報は各リンク先および、お住まいの自治体の窓口でご確認ください)





